製薬Marketingってなに?これからの製薬Marketingに大事なことは?って聞かれたら「顧客(患者)志向+Insight」と答えるのですが、「どうして製薬Marketingが顧客(患者)志向+Insightになってきたか?」を理解するには日本の製薬Marketing、というかPromotionの歴史を3つの時代に区分して理解すると分かりやすいと思います。
お医者様は神様です!Marketing??何それ?時代
いわゆる「プロパー」の時代で1997年のMR認定制度の開始ごろにこの時代は終焉していきます。この時代の特徴は、やや大げさですが
- プロパーの仕事はとにかく医師の役に立ち、関係性で薬を売る
- マーケティングという概念は存在しない
- マーケティング部がある場合でもしていることは資材作成、イベント運営
- セグメントの意味することは「診療科」
- ターゲティングの意味することは「KOL、医師のPotential別の分類」
- Key message:なにそれ?
- 市場分析:売上分析だけ
- 市場調査:作成した資材を医師に確認する目的
のような感じで、とにかく押して、押して、恩を売って、ギミック配って、接待して、ゴルフして、という時代と聞いています。(私自身は2004年から製薬業界なのでこの時代を知らない)
実際問題、当時は国内製薬会社がブロックバスターを多く抱えており、その薬をいかにPushするか?で売上が決まっていたと思われ、ある意味、最適化された活動であったと思いますが。そんな状況もMR認定制度の導入、コンプライアンス意識の高まり、外資系製薬会社の日本でのプレゼンスの拡大により、次の時代へと移行していきます。
Mega Pharma SoV/Key
message至上主義時代
21世紀に入ると外資系製薬企業の日本での活動、プレゼンスが本格化し、海外(特に米国)で培われた「Marketing主導でのブロックバスター化するモデル」が日本にも導入され始めました。IMSなど医療関連のデータ提供サービスが充実し始めたこともこの時代です。この時代の特徴をやや大げさに書くと
- コンサル(McKinsey)の影が色濃い、LogicalなMarketing、Segmentation、Targeting、Key messages
- 製剤の差別化ポイント=Key Messagesとして、絨毯爆撃のように優先顧客に投下
- MRの仕事は「いかに決められたKey Messageを伝達するか?」になり、MRの仕事の画一化が進む=SoV命!(軍隊的)
- メガファーマのBlockbusterに適したモデルで大流行
この時代はまだまだm3などのeDTLの隆盛前夜であったこと、ブロックバスターが生活習慣病中心であったこと、差別化できるポイントが少ないことからとにかく「SoVで差別化(or 顧客の脳内刷り込み)!徹底してKey messageを伝える」ことに命をかけていた時代です。「ゴホンと言えば龍角散!」のように、「スタチンと言えばXXX!」みたいに刷り込むのです。この時代のブロックバスターのDTL数と売上を分析したら、きれいな相関を示したことをよく覚えています(相関なので、因果の程度は不明)
この時代の有名かつ汎用されていた分析ツールがSWOT分析です。具体的にはSWOT分析で競合も鑑みた自社製品のStrength(強み)Weakness(弱み)を抽出して、差別化できるポイントを探し、それをKey messageにしてターゲット医師に訴求する、というのが基本的なプロセスでした。そしてKey messageをとにかくMRに連呼させターゲット医師に刷り込むことに命を懸けていた時代です。
当時行われた市場調査に「message recall調査」というものがありまして、調査会社を通じてターゲット医師に電話をし「X社の製品Yについて、どのようなメッセージをMRから受け取りましたか?」という調査を実施し、「Key message recall率」をKPI化することも行われていました。これがKPIになることにより、「早い!旨い!安い!」みたいな覚えやすい短いKey Messageが横行するという手段の目的化という副作用もありました…。とはいえ、ターゲット医師に自社製品のKey messageを浸透させることは自社製品を処方してもらう第一関門のAwareness=認知に過剰に注力していたものであり、ただ、その後のTrial、Usage(いわゆるATU)まで考えてはいたものの、処方もSoVの力、パワーで押しきって獲得しようぜ!という時代だったと思います。スタチン、ARB全盛のあの頃、といえば、あぁ、なるほど、と思ってくださる方も多いと思います。
製薬企業に勤務していて何度も経験していることは、SoV至上主義の時代の成功体験から、現在においてもその手法をごり押しするSenior managementの人たちが多くいまして、そこは今の製薬Marketingがどんな時代で、、、というのをUpdateしてほしいと常に思っているのですが、なかなか…
関連記事:SoV至上主義時代の限界
Pts Journey、Insight
marketing時代
2010年くらいからPts Journey, Insight marketing時代がジワジワと始まり、私自身もそれまでのSWOTからいきなりPts journeyという考えが導入されて面食らったことを覚えています。考え方としてはSoV至上主義時代は「製薬会社が差別化したいKey messageをとにかく浸透させる」ことに注力していたのですが、患者中心、顧客を中心に考えるMarketingが始まったこと、SoV市場主義の限界に対応するためにこの方法が始まりました。Pts Journey、Insight marketing時代の特徴は
- Pts journey(Seek treatment、診断、治療方法選択、薬剤選択、服薬継続等)の作成
- Pts journeyにおける重要な箇所での顧客(医師・患者)の気持ちまで深堀りした勧化、気持ちの理解
- Segmentationの深化(Insightを含んだペルソナ)
- Segment毎にカスタマイズしたメッセージ、アクションプラン
私自身がMRだったときにADHD治療薬を担当していました。当時はADHDに薬物治療がまだまだ浸透していないときであり、とある医師が「山岡さん、〇〇がとてもいい薬なのはわかったし使いたいと思うよ、でもADHDの子に薬物治療をするのはちょっと…」というのが医師の本音で、相当の重症例を除いて薬物療法をしていませんでした。
この医師の本音、Insightは「ADHD治療薬が重症の子にしか使わない、基本的に子どもに薬は使いたくない、だって薬はリスクあるし、重症例以外の子に薬物療法をして、将来何があるか分からない、私は子どもの将来を第一に考えている」と私は考え、特に「私は子どもの将来を第一に考えている」というのは医師の言動から偽らざる本音だな、と思いましので、ある日の面会で医師にこんな提案をしてみました。
先生も私も近視で眼鏡をかけていますよね?私はADHDの治療薬って、私(そして先生)にとって眼鏡のようなものだと思うんです。もし自分が子供の頃に眼鏡がなかったら、黒板が見えなくて授業が分からない、運動もうまくいかない、友達との遊びもうまくいかない、勉強もできない、、、ってなっていたんじゃないかな、って。ADHDの子どももADHDの症状があることによって、私たちが眼鏡をかけていない時のような困り事を多く抱えているんじゃないんでしょうか?私たちが眼鏡をかけることによって、得られた多くの勉強、運動、日常生活の成功体験を、ADHDの子どもの将来を考えるとADHD治療薬を服薬することによって得られて「やった!できた!」が増えて子どもが成功体験を増やして自尊心が高まることは、薬物治療の不利益よりも大きく患者さんの将来を明るくすることに繋がるんじゃないでしょうか?
この提案に先生は「いわれてみれば、そうかも、気づきがあった」と言っていただいて、その後はADHD治療薬を処方してくれるようになり、ADHD治療薬に躊躇する患者の保護者に対しても私の話をほぼそのまま治療薬の説明に使って説得してくれた、ということがありました。
手前味噌な経験談ですが「製品特性を理解しても使ってくれない」医師の本音と使ってくれるためのツボ(≒Insight)まで考慮してMarketing戦略、活動を行うのがPts Journey、Insight marketing時代だと考えます。
SoV至上主義の強いところは製品特性の浸透であり、そこはもうDigitalに任せてもいんじゃないか?とすら思っています。(Launch時にはMR使った説明会などを通じた製品特性の浸透はもちろん大事ですが)コロナによって、医師との面会機会はこれまで以上に限られて、面会時に医師にいかに「気づき」を与えて「患者さんにとって自社製品がなぜよいのか」を理解し、医師の脳内その患者さんが自社製品を使用することでBenefitを得ている様子が映像として浮かばせるまでして、ようやく処方がとれる時代になっていると思います。そのためにはMarketingもSalesもより深く顧客を理解し、MRは各医師のニーズを深く知り、カスタマイズした治療提案をする時代になってきていて、Key
messageを連呼するだけのMRは不要になり、しっかりと治療提案ができるMRが医師にも必要とされて、そういうMRが生き残る時代になってきているのではないでしょうか?
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