2023年4月1日土曜日

SoV至上主義の限界

「製薬Promotion、Marketingの3つの時代」という記事で「SoV至上主義時代」という製薬Promotionの時代がありこのような特徴があることを紹介しました。

  • ブログコンサル(McKinsey)の影が色濃い
  • LogicalなMarketing、Segmentation、Targeting、Key messages
  • 製剤の差別化ポイント=Key Messagesとして、絨毯爆撃のように優先顧客に投下
  • MRの仕事は「いかに決められたKey Messageを伝達するか?」になり、MRの仕事の画一化が進む=SoV命!(軍隊的)
  • メガファーマのBlockbusterに適したモデルで大流行

だいたい2010年くらいまで続き、今もこの時代に成功体験をもっているSenior Managementがいて、彼らに「時代が変わったんだよ!」と説得するのはなかなか体験なのですが、読者の中にもそういうSenior managementあるいは、彼らの影響を受けて「SoV至上主義脳」に染まっている方がいるかもしれないので、なんでSoV至上主義はもうダメなのか?を書きたいと思います。

SoV至上主義の凄いところは軍隊的な絨毯爆撃といいますが、Key messageを徹底して医師に伝達して刷り込むパワーなんですが、私自身、その当時MRをしていて「ターゲット医師への訪問は月に8回」と設定されているBrandもあったくらいです。(私自身は当時は希少疾患的な扱いだったADHDの専任MRだったので、そこまで訪問頻度は高くありませんでしたが)

SWOT分析で競合に対して差別化できるKey Messageというのは、往々にしてそのBrandの製品特性(有効性、安全性等)になることが多いんですが、新製品発売時にはSoV至上主義時代のようなKey message伝達はとても重要です。

新製品発売時のKey message伝達の重要性

当然なのですが、新製品発売人はその製品、Brandのことを「知らない」顧客が多いので、「知ってもらう」こと=Awarenesssを上げることが大事です。SoV至上市議時代は、それこそ「月に8回の面会」みたいなパワーでAwarenessをあげてきました。(その後もずっとパワーでしたが)Awarenessが上がって、Key Message(製品特性)が理解されると「おっ!これいいね、使ってみよう」と製品特性に反応して使ってくれる顧客がでてきて、売上が増え始めます。


SoV至上主義全盛時代(2000年代)と異なり現在ではAwareness、Key messageを浸透させるのに有益なツールがデジタルチャネルです。デジタルチャネルはKey messageを言い間違えないですし、MRよりも効率的に多くの医師にKey messageを届けることができるので、特に新製品発売時には非常に有効なチャネルです。

しばらく(2年くらい)すると、Key message, 製品特性が浸透すると「製品特性のメッセージが響いて使ってくれる」医師はみな、処方をするようになり、売上やシェアが停滞し始めます。


こうなると、特にLaunch時からのKey message浸透に命を懸けて、シェアをあげてそれが成功体験になっているBrand Directorなんかは「メッセージの浸透が足りない!もっとSoVを!」ってない対応をしがちなのですが、私がここで言いたいのは「いやいや、ちょっと待ってください。顧客はどう思っているのか、本音=Insightに耳を傾けてください」ってことなんです。

この時点では多くのターゲット医師はPromptionしている当該製品の製品特性は理解している人が多いです。なのに使ってくれない、その気持ち、本音=Insightはこんな感じだったりします。


もう「製品特性考えたら、御社の製品が1番いいのはわかっているけど…」って思っている医師にこれ以上、Key messageを言い続けても処方にはつながらないことはご理解いただけると思います。

Insigh時代のMarketing

じゃあ、どうしたらいいのか?ここで理解しておかないといけないのは「人間はエビデンス(だけ)では動かない、感情で(も)動く」ということです。

こういうインターネットの広告を見たことがあるかたは多いと思います。


私自身、自宅のインターネットに毎月3800円くらい払っているので、このプランに乗り換えたほうが「合理的に、エビデンス的に」考えたら得なんですが、なかなか乗り換える気になりません。「別に困ってないし、帰るのは面倒くさい」って”気持ち”が強いからです。同じような理由で乗り換えない方が多いと思います。

医師もこれと全く同じ気持ちなのです。

「製品特性理解して、その製品が一番いいのはわかるけど処方しない」という医師がけっこう多くいることは皆さんも経験があるのではないでしょうか。

再びインターネットの例に戻ると、自分自身に置き換えて考えてみても「面倒くささ」を乗り越えて「ネット回線を切り替える」動機になるのは「切り替えた後のBenefitが具体的に、脳内に映像=イメージとして浮かんだとき」だと思います。例えば、この方はテーマパークが好きで「浮いたお金で家族でテーマパークいける!」って(何らかの理由で)気が付いて、それなら変更しよう、となったとします。


医師も同じで、「面倒くささ」を乗り越えて「既存薬から製品Xに切り替える」動機になるのは「切り替えた後のBenefitが具体的に、脳内に映像=イメージとして浮かんだとき」だと思います。医師なので、それは「具体的な患者さんが製品Xで元気になる、笑顔になる、よくなるイメージが浮かんだとき」なんじゃないかな、って思います。そして、その「切り替えた後のBenefit」は時には医師が気が付いていないことがよくあります。


具体例ですが、これまで「月に1回通院して(仕事を休んで)丸一日かけて点滴して治療継続」が標準的なであったところに、「週に1回、在宅で自己注射できる」自社製品を出していくことがありました。月に1回仕事を休まなくて、自宅でできるメリットから立ち上がりも良かったのですが、一定数「週に1回の在宅自己注射は大変だし、それなら月に1回病院で点滴したほうが仕事を1日休んでも患者さんも楽だろう」と考える医師がいました。そこにとあるMRさんが「その患者さん、仕事を月に1日仕事を休んでいるっておっしゃってましたが、正社員の方ですか?正社員だと有給塚やすいですが、派遣社員だとその分、給料が減るでデメリットが…月に1回通院するために派遣社員をしている患者さんがいたもので…」ということから医師に気づきを与えて、その派遣社員の方が週1回の在宅治療に変更になったというケースがありました。医師曰く「派遣社員だと休んだ分、給料が減るとかまでは考えが及ばなかったし、その患者さん、在宅投与できるなら正社員を目指せると喜んでいたよ」とのことで、これはMRさんのが医師が認識していなかったBenefitの気づきを与えて、具体的な患者さんの役に立つイメージが医師の脳内で明確にできたことから変薬につながったのだと思います。

COVID-19でデジタルチャネルが拡大して、多くの情報提供がDigitalで行われるようになりましたが、前も申し上げた通り、デジタルは製品特性やKey messageを伝えるのは得意ですが、その医師、その患者さんの状況、ニーズにあったような治療提案ができるのはMRさんです。Marketingは「製品Xは一番いい薬だよね、でも既存治療を変えるほどでは…」の背後にある医師の本音や医師が気づいていないニーズ(insight)をしっかり理解しして、それを克服するアイディア(上記でいう患者の休むと給料が減ってしまうというunmet needs)をどんどんMRさんや医師に提供して、より患者の治療アウトカムを高めていく時代になっているんじゃないんでしょうか?




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