留学前はスズキという「日本企業でございます!」という会社で働いていたので、留学後に外資系製薬企業に入社したら、Marketing関連の用語の多さにびっくりしたことを覚えています。Segmentation, targetingなどはまだ言葉の意味、実際の内容が近く明確だと思うのですが
- Positioning
- Strategic intent
- Strategic imperative
- ・・・
あたりは汎用されているものの、どうも「Brand Planのtemplateにあるので、なんとなく語感に合わせて、それっぽい文章を作成している」ケースも多いのではないでしょうか?
特にPositioningって言葉は製薬業界でも汎用されていますが、実際にPositioning がなぜ必要で、どう役にたつか?を理解しているBrand Managerは少ないと思います。Google検索でTopにあがってきたPositioningの説明がこちら;
「ポジショニング(英語:Positioning)とは、競合他社の製品と差別化を図り、顧客に対してアピールできるような自社製品の提供価値を決めるプロセスのことです。いうなれば、「チョコレートはA社の製品でなければダメ」「醤油を購入する際はB社の製品と決めている」というように、顧客の心の中に明確なポジションを構築する施策を意味します」https://www.utokyo-ipc.co.jp/column/positioning/
確かに間違いではないのですが、このPositioning=自社製品が適切な患者が届くための医師の認知、と製薬Marketing的に変換するとなりますが、ごちゃごちゃ長い文章で説明しても「イメージが沸かない」ので、私はPositioningを「顧客がそう脳内で認知してくれたら自社製品が選ばれる」状態=Desired perceptionだよ、と説明しています。
過去いろんなBrandのPositioning statement(=Positioningを文章化したもの)を見ているとこのようなケースが散見されます。
- ハイレベルすぎて「製品Xが私の第一選択薬」みたいなStatementになる
- 自社製品が差別化できるポイント訴求になっている
ハイレベルすぎて「製品Xが私の第一選択薬」みたいなStatement
「製品XがBestな治療選択肢、私の第一選択薬です」みたいなPositioning statementは耳障りはいいんですが、あまりにハイレベルすぎて全員が「確かにそうだ」と思ってはくれますが、具体的なアクションに繋がりません。強いて言えば「気合と根性で製品Xを医師の第一選択薬にする!」というアクションに…。このケースではCurrent perceptionも「製品Xは私の第一選択肢ではない」とPositioningの裏返しになっていて、医師の本音=Insightのかけらも入っていません。このようなハイレベルすぎて誰も反対しないけど、特に意味のない状態を私は「世界平和問題」と呼んでいて、世界平和は大事で誰もが望んでいることで「世界平和は大事」と皆が願っても、それだけでは世界平和は実現できないし、世界平和を目指す具体的な案が出てきません。せめて「製品Xは私の第一選択薬です、なぜなら…」の理由、医師の本音などがとても大事で、そこまで含めると「顧客のこういう認知をこういう風に変えないと」という具体案に繋がってきます。
新製品がLaunchしてしばらくはもちろんメーカーが伝えたい製品特性、差別化ポイントを顧客に訴求するのは重要です。新製品の認知、製品特性の理解は処方獲得への第一関門、entry ticketです。それをCurrent perception、 Desired perceptionで書くとこんな感じです。
Launch時の上記Desired perceptionを目指すことによって、製品特性を理解して、製品特性に反応して処方してくれる医師」が処方開始してくれ、売上は伸びます。しかししばらくすると売り上げの伸びが鈍化してしまいます。この伸び悩みの原因は「活動が製品特性≒key messageの浸透」に注力しているが、医師の多くはすでに製品Xの製品特性≒key messageを認知している=Launch初期のDesired perceptionが実現されている状態なのです。ですので、これまでの「Desired perception」を考え直す、そのために、Insightを含んだCurrent perceptionを考え直す必要があって
具体的な例を示します。私自身もそうですがスギ花粉症に悩む患者さんは日本には何千万人もいます(私もその一人です)。巨大なスギ花粉症市場に多くの抗ヒスタミン薬がかなりの労力をさいて「花粉症は医師が処方する治療薬で楽になる、だから病院にいこう!」を目指して多くの労力を割いてきました。
私もスギ花粉症の患者なので「花粉症は医師が処方する治療薬で楽になる、だから病院にいこう!」というのは良くわかっていますし、私は実際に昔から病院に行って毎年抗ヒスタミン薬を処方してもらっています。が、病院に行かない多くのスギ花粉症の人はは
- 病院にいって処方薬をもらえばよくなるのはわかっている
- でも病院に行くのは待つし、手間だしお金かかりそう(具体的には知らないけどそういうイメージ)
- そもそも何科を受信したらいいの?
- そうこうしているうちに病院に行く前に花粉症の季節は終わって症状なくなる
というような本音=Insightに基づいたCurrent perceptionが分かってきて、一文にすると
「花粉症は医師が処方する治療薬で楽になる、だから病院にいこう!とは思うけど、忙しいしお金かかるし、面倒くさいし、ついつい毎年病院に行きそびれてしまう。そんなこんなしてると花粉症の季節が終わっちゃうんだよね」
みたいな感じでしょうか。ここまで分かるとDesire percpetionはこのCurrent perceptionを乗り越えるようなものになり、ちょっと雑ですがこんな感じに
「花粉症は医師が処方する治療薬で楽になるし、どの病院、診療科に行くかも簡単にわかって、手間もないし、金銭負担も思ったより少ないんだ、これなら病院にいって花粉症の薬もらって治療したほうがいいよね」
ここまでくると具体的になると打ち手は「いかに病院にいくハードル下げるか?」が大事になってきて、お金の話、待ち時間の解決、と等々もいろいろなアクションを考えることができます。
Segment毎にInsight、本音に基づいたCurrent perception=現在の顧客の本音、Desired Perception(≒Positioningt)を作って、そのギャップを埋める打ち手を考えるというのはとても有効だと思います。(Segment毎のPositioning Statementは許されない!というBrand Plan Templateも多いとは思いますが)
あとGlobalや偉い人たちから「こんなPositioning Statementは長すぎるしダメだ!」って言われた場合は、少しそれっぽく「花粉症は医師の処方薬で症状がよくなり、病院にいく手間も感じない」くらいにスライド作成時は短縮してもいいと思いますが、実際の打ち手をBrand Teamで考えるときは、Statementが生々しいほうが具体的なアイディアが出やすいと思います。Insightはその本質ゆえに生々しいものなので。
長いことこの説明をしたり、Marketing研修のワークショップで花粉症が身近で皆さんが理解しやすいので使ってきたんですが、現実の花粉症治療薬の世界では「病院に行くハードルが高い」を各社OTC薬に注力して解決している状況が今なんだろうな、と思います。
Positioningという言葉は分かりやすいようで、分かりにくい。「耳障りのいいだけの」Positioning Statementではなくて「使える」「打ち手に繋がる」Positioning」じゃないと意味がないよね、というのは製薬Marketingに関わるひとたちにもっと意識されてもいいんじゃないかな、っていつも思っています。
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